このコラムでは当院で多い疾患に対してのリハビリテーションプログラムをご紹介します。
1.どのような障害か(病態・原因・症状)
野球肘とは、
投球動作が繰り返されることにより、肘関節の骨・筋肉・靭帯に負担が加わることで起きます。
投球動作では肘が外側に引っ張られる「ストレス(外反ストレス)」が、
約硬式ボール120個分、肘に加わると言われています。
図1.肘関節の外反ストレス(文献1より引用)
肘にかかるストレスを筋肉・靭帯が減らすために働くことで、負担がかかります。
野球肘は、「内側型」「外側型」「後方型」に分けられています。
・内側型:内側側副靭帯(UCL)損傷、回内・屈筋損傷、内側上顆剥離骨折、尺骨神経障害
・外側型:離断性骨軟骨炎(OCD)
・後方型:肘頭の骨棘障害・疲労骨折
図2. 内側上顆剥離骨折(文献2より引用)
図.3離断性骨軟骨炎(文献2より引用)
野球肘が起きる原因は、
「投球動作を含む投球負荷」だと言われています。
これは、①1球の投球負荷×②投球数×③投球頻度 が要因となります。
①1球の投球負荷は、いわゆる「投球フォーム」です。
「筋力低下・柔軟性低下などの体の問題」また「投球動作自体の問題」により、良くないフォームで投げると肘にかかるストレスが増します。
良くないフォームの代表例は「身体の開きが早い」「肘が下がる」となります。
②の投球数は、「球数」です。
③投球頻度は、「1週間にどのくらい投げるか、練習するか」です。
①~③がかけ合わさり、肘にストレスがかかることで野球肘となってしまいます。
野球肘の症状は、
「肘関節の曲げにくさ・伸ばしにくさ」「ボールを投げた時の痛み」
「肘の内側を押した時の痛み」「バッティングをした時の痛み」
など、以上が代表的な症状となります。
ボールを投げた時に痛くなるタイミングは、
「胸を張った時」「ボールをリリースする時」に起きやすいです。
図4. 胸を張った時 図5.ボールリリースの時
このタイミングで痛みが出る選手は、野球肘の疑いがあるので受診を勧めます。
2.診断・治療
・画像診断:X線画像・MRI・超音波検査など
肘関節の骨や靭帯に損傷が起きていないか画像所見から診察します。
・理学検査:肘関節の可動域、曲げの伸ばしの時の痛み、外反ストレステストなど
・治療:保存療法・手術療法
3.リハビリテーション
画像診断や痛みの程度から、肘の状態を把握したうえで投球制限の期間が設けられます。
投球制限解禁後は肘の状態・痛みに考慮しながら、主治医との相談のもと、投球距離を伸ばしていきます。
投球制限の例)
STEP1 | ネットスロー30球 |
STEP2 | 塁間の半分くらいの距離でキャッチボール(半分くらいの力で)20球 |
STEP3 | 塁間の距離でキャッチボール(半分くらいの力で)20球 |
STEP4 | 塁間の距離でキャッチボール(半分くらいの力で30球)(70%くらいの力で20球) |
STEP5 | 塁間より長い距離(25~30m)でキャッチボール (半分くらいの力で30球)(70%くらいの力で20球) |
STEP6 | 少しずつ実践練習を始めていく |
投球制限期間は、全身の筋力・柔軟性の改善、投球制限解除後は投球フォームの改善を目的としたリハビリテーションを実施いたします。
・肘関節柔軟性改善ストレッチの一例⬇︎
・股関節ストレッチの一例⬇︎
・胸郭ストレッチの一例⬇︎
患者様によって、機能障害(関節の動きが悪くなっている、筋力が発揮できないなど)を起こしている部位は様々であり、個人差があります。
このページで紹介しているリハビリテーションプログラムのみでは症状が改善しない場合があります。症状が改善せずにお困りの方は是非ご受診していただき、リハビリテーションを受けていただくことをお勧めいたします。当院のリハビリテーションでは患者様一人一人をセラピストが丁寧に評価をして患者様にあった治療プログラムを作成いたします。
*当院では火曜、金曜日の午後に上肢の専門医による上肢専門外を実施しております。
文責:リハビリテーション科 理学療法士 山﨑健太
引用
1)工藤慎太郎:運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学
2)能勢康史,他:野球の医学,臨床スポーツ医学,2015.
3)坂田淳,他:肘関節理学療法マネジメント