このコラムでは当院で多い疾患に対してのリハビリテーションプログラムをご紹介します。
『腰椎分離症』
1. どのような障害か
<病態>
スポーツ活動などで腰を反らせたり、捻ったりする動作を繰り返し行うことで腰椎の関節部分に徐々にストレスが加わることでおこる疲労骨折のことです。
一般の人では約5%、スポーツ選手では約30~40%の人が分離症と診断されています。
<原因>
成長期での活発な運動(サッカーのキック動作や投球動作など)により過度に腰部へストレスが加わることで起こります。腰部にストレスがかかりやすくなる原因はさまざまですが、股関節周りの筋肉の柔軟性の低下や猫背姿勢、背骨の動かす範囲が狭くなること、体幹筋力が低下していると腰痛が起こりやすくなります。
好発しやすいスポーツ:野球、サッカー、バスケ、バレーボール、陸上競技、水泳、バレエ など
<症状>
腰部の圧痛、腰部~臀部にかけての痛み、運動時の痛み、体を後ろに反らせることによる痛みの増強が特徴です。
2. 診断・治療
<診断>
画像診断:X線、MRI、CT など
CTによる病期分類 (文献1から引用)
<治療>
成長期で腰痛が生じて間もない初期の場合は骨折部の骨癒合を目標に治療を進めていきます。その際には3ヶ月程度はスポーツ活動を中止し、硬性コルセットで装具固定をしていきます。疼痛が軽減してきたら骨折部分に負担のかからない範囲で運動療法を行っていきます。12週経過したら再度MRI検査をし、骨折部分が治癒(骨癒合)していたら硬性コルセット除去となります。この骨癒合の結果次第でコルセット除去の期間が延長する可能性もあります。
慢性的に腰痛がある場合や成人の場合は骨癒合が期待できない為、薬物療法や運動療法を行っていきます。痛みが慢性的に強く、日常生活にも支障がある場合は手術が適応される場合があります。
3. リハビリテーションプログラム
腰椎分離症は一定期間の安静で腰痛自体は軽減してきますが、身体機能や動作が修正されないまま競技に復帰すると再発するリスクが高まります。そのため、可動性や安定性、姿勢などを評価し、腰椎に負担がかかっている原因を解決する目的でリハビリテーションを行っていきます。
〇硬性コルセット装着
①可動域改善
成長期は骨の成長とともに筋の柔軟性の低下が顕著にみられる時期です。特に股関節周りの筋肉の柔軟性低下や背骨の可動性低下は骨盤や腰椎への過剰なストレスにつながります。固定期間中も股関節周りの筋肉のストレッチを行うことが重要になってきます。
SLRストレッチ 腸腰筋ストレッチ
②体幹筋強化
腹筋や背筋の筋力低下は背骨の関節部分にストレスがかかりやすい状態になります。そのため、腰痛の再発予防を目的として体幹筋の強化を行っていきます。
フロントブリッジ 両膝抱え
〇装具除去後または軟性コルセット装着
下肢のストレッチや体幹エクササイズに加えてスポーツ復帰を見据えた運動を行っていきます。スポーツ完全復帰の目安はスポーツ復帰許可後1ヶ月とされています。
胸椎回旋ex
【最後に】
腰椎分離症は早期発見が重要となるため、成長期のお子様やスポーツをされている方で腰痛があってお困りの場合はご受診いただき、リハビリテーションを受けて頂くことをお勧めいたします。
患者様によって機能障害(関節の動きが悪くなっている、筋力が発揮できないなど)を起こしている部位は様々で個人差があります。また、治療の目的(骨折部の治癒もしくは疼痛軽減)などは医師と相談しながら決めていきます。
当院のリハビリテーションでは患者様一人一人をセラピストが丁寧に評価をして患者様にあった治療プログラムを作成いたします。
文責:リハビリテーション科 小林 眞弓
引用文献
1)眞鍋裕昭・西良浩一:病態を知る(腰椎分離症),脊柱理学療法マネジメント,2019,p48-56
2)杉浦史郎:MobilizationとStabilizationによる復帰支援, 臨床スポーツ医学34,2017
3)佐藤正裕:発育期腰椎分離症 競技復帰に向けたエクササイズ, 臨床スポーツ医学33,2016
4)松野丈夫・中村利孝:脊椎分離症, 標準整形外科学12版, 2015, p572